七夕マイノリティ [1/1]
―――7月7日、七夕。
天の川より二分された恋人たちが、一年に一度だけ会うことを許された日。
……そうやって織姫と彦星に、一寸の希望を見いださせたように。
―――…オレにも早く、希望をくれ。
七夕マイノリティーーーーーーーーーーーーーーー
真夜中……部屋に入ると、そこには既に一人が寝ている。
『おかえりサソリ。』
「……何だよ、まだ起きていやがったのか。」
『だってニュースでね、今日は一生に一度あるかないかの流星群の日だって言うんだもの。せっかくだし、何かお願い事しようと思って。』
「くだらねぇな。そんなもん所詮はガキの遊びだ。」
『あはは、……サソリは一瞬のものには興味ないからね。』
はにかむように笑うname。
そんな奴の隣に潜り込めば、ベッドのスプリング音がやけに響く。
―――オレたちは“隣で眠る”……ただそれだけの、素朴な関係。
『サソリはもう寝ちゃうの?』
「当たり前だ。明日も仕事だからな。」
『大変だねぇ。でも今日は七夕だよ、サソリも何かお願い事したら?』
「しねぇ。」
『何ふて腐れてるの?ひょっとして願い事、ないの?』
あるに決まってんだろ。
そりゃあとびきり叶えてほしいのが一つ。
『アタシはあるよ、とびっきり叶えてほしいのが一つ。』
「人のセリフぱくってんじゃねぇよ。」
『サソリ何も言ってないじゃない。』
「心の中で思ったんだよ、見んな変態。」
『なんて無茶ぶり……。』
「で、その願い事とやらはもちろん、今ここで白状するんだよな?」
『駄目よ、言っちゃったら叶わないかもしれないでしょ?』
「んじゃあ七夕飾りにでもつづっとけ、後で破り捨ててやるから。」
『サイテー。』
すると途端、カーテン越しの空が明るくなった。
隣のnameが飛び起きて慌てて窓を開ければ、湿った空気と昼間のように明るい光線が。
―――あぁ、こりゃあ確かに一生モンだわ。
『凄い…見てみてサソリ!凄いよ!あんなに星が降ってきてる、雨みたい!』
「見えてるっつうの。んなに横でチカチカされたら嫌でも視界に映らぁ……テメーも願い事すんならとっとと済ましちまえよ。」
『待ってよ、まだ始まったばっかりなんだから。もうちょっとだけ。』
「パレードか何かじゃねぇんだよ、予測通り降り続く保証なんかねぇぞ。」
『そりゃあそうだけど、だって。』
ただひたすらに星空を見据えるnameが、その視線をチラリとだけオレに向ける。
『こんなに綺麗な流れ星を前に、目をつぶっちゃうなんて勿体ないでしょ?』
―――その顔に作り出された陰影のコントラストに、思わず息を飲む。
ようやくnameは瞳を閉じ、胸の前で手を組み合わせ祈り始めた。
―――チッ……どこのどいつだ。天の川なんて垂れ流した奴は。
顔も知らないそいつのせいで、オレは一年どころか、一生想いを告げることさえ叶わねぇ。
(……叶えられるもんなら、叶えてみやがれ。)
そうしてオレも瞳を閉じた。
起き上がるでもなく、両手を組むでもない……ただ横になった姿勢のままの、ふてぶてしい祈りかた。
―――好きになれとまでは言わない、ただオレの気持ちに気づいてくれさえすれば。
オレは念じた。ただひたすらに、それだけを。
(……気づけ…)
―『……告白、されたんだ。』―
(………気づけ……、)
―『今度ね、旅行行くんだよ!お土産たくさん買ってくるからね!』―
(―――……っ気づけ………、)
―『結婚……したいかも。』―――…
―――パッと目を開けた。
そこには瞳を開けた、nameの姿が。
(……あぁ…やっぱり………)
『サソリ……?』
あまりにも安心しきった目で、あまりにも希望に満ち足りたその目を見て。
―――…叶わねぇな。そう自覚した。
2013/12/09
ーーーーーーーーーーーーーーー
prev | next